BUCK FUSH

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セントラルパークの北東の角、5Aveの道向かいに工事現場があって、現場を囲うベニヤ板の一枚にこう書いてある。「BUCK FUSH」。すごくシンプルなアナグラムなんだけど、いつ通りかかっても上手いな、と思う。これが書かれている110Stは、アッパー・イーストという高級住宅・商店街がイースト・ハーレムに接するところ。

文字を入れ替えた「そのもの」の文が書かれていたらそれは大したインパクトを持たなかったろう。たとえみなが思っていることであったとしてもそれはあまりに常套句であり、貧弱なつぶやきにしか聞こえない。だがBUCK FUSH。見た瞬間に脳は文字を入れ替えてしまうが、よく見ると書いてあるのはBUCK FUSH。ここで見る者が聞く声は、書いた者が押し付けてくる常套句ではない。それは見る者自身の内部から飛び出てくる声で、その声が引き出されることによって、そこには一つの共犯関係が生まれる。